プロフィールと「世界史」について




広島県で教鞭をとり十年を超えました。
練習不足ながらも,しぶとく球を蹴り続けています。


 「世界史なんて何のために勉強するの?」「昔の人の名前とか覚えても意味ないじゃん」という台詞をよく聞きます。 確かに人名や年号など,それ自体は何の役にも立ちそうにありません。一体私たちは何のために世界史を学ぶのでしょうか。


 答えとしてよく言われるのが,「過去の過ちを繰り返さないため」です。人類は歴史上,無辜の民衆が犠牲となる様々な過ちを 犯してきました。それらを学ぶことにより,人類はこれからの世界で少しでも過ちを減らすことができるのではないか,という ものです。

 でも,歴史はただの「過ち」の積み重ねではありません。人類が苦難や逆境に負けず成し遂げ,創り出してきた多くの 財産もあります。「歴史=過ち」と決め付けてしまうのはあまりに一面的です。

 また,何を「過ち」とするかには価値観によって違いがあります。このことは大きな危険を意味します。というのは,ある価値観をもって 「過ち」を意図的に取捨選択し,つくりあげて教えることによって,人々を特定の思想へと誘導することができるからです。ナチスドイツ の独裁政治はその典型で,ドイツ国民の多くは独裁者ヒトラーに万歳を叫んでいたのです。この歴史的事実が示す「過ち」とは, 「過去の過ちや歴史などを利用して特定の価値観を人々に植えつけること」ではないでしょうか。

 以上のように,「歴史は人類の過ちの積み重ねであり,それを繰り返さないために歴史を学ぶ」という考えには,思わぬ落とし穴がひそんでいるのです。


 では,世界史を学ぶ目的とは何でしょうか。それは,「現在の世界でおこる出来事の原因や影響を考える材料の一つとする」ことであり, 「その中で人間の集団が,または自分が,どのように行動すべきかを考える」ことではないかと考えます。

 例えば,現在までにはたくさんの不況が発生し,また無数の戦争が起こっています。それらの原因や影響,解決できた要因などを 参考にすれば,現在おこっている不況や戦争の原因・影響・解決策を考えるヒントが見つかるかもしれません。少なくとも歴史を知らない よりは。もちろん,過ちがおこるのを防ぐという意味もありますが,まず「どうなることが人類にとって過ちなんだろう」という判断は, 個々の出来事の原因と影響を冷静に分析することなしには難しいでしょう。

 つまり,「様々な歴史的事実の原因や影響を考えることにより,現代世界の出来事の原因や影響・解決策を考えるヒントを探ることができる。」 これが世界史を学ぶ意義なのではないでしょうか。もちろん,歴史とは関係なく諸問題の答えが見つかることもあります。歴史が全てというつもりはないし,歴史が絶対でもありません。先に書いたように, 歴史はあくまでも「考える材料の一つ」なのです。


 ところで,こういう人もいると思います。「自分が世界情勢に関わることはないし,人類がどうすべきであるなんて自分が言っても何も変わらない。だから世界史を学んでも無意味じゃないか。」

 これには2つの答えを提示したいと思います。

 まず,私たちには選挙等により政治に参加する権利があります。自分の考えを持ったなら,国や地域が少しでも良い方向に向かいそうな 人や政党に投票することができます。そして,国や地域が世界や人類全体に対して関わっていくことになるのです。つまり,間接的にでも,影響力は小さくても,憲法で認められている政治参加によって, 世界情勢や人類の進む道に関わることはあるのです。投票すらしないという人は,世界どころか,政治の結果,日常生活で損をすることになっても文句は言えないでしょう。近年は多様な情報があふれていますが, それらに惑わされることなく自分の考えを持つには,政治や社会に対するしっかりとした考え方を身に付けておく必要があります。

 次に,大人になると何らかの企業組織に属して働く人が多いと思います。企業も組織も人間の集団であり,国と同じようにリーダーや幹部や一般の人々がいるわけです。世界史で学ぶ内容には 「国という人間集団が発展するのはどのような場合で,廃れるのはどのような場合か」などという例が多くありますが,国を企業や組織に置き換えることで,「自分の所属する組織をよりよくする にはどうすればよいか」を考える材料の一つになるのではないでしょうか。だから世界史を学ぶことは重要なのです。


 以上が私の考える「世界史を学ぶ意義と目的」です。そうである以上,「世界史=暗記」という教え方はしたくありません。しかし, 知識なしに考え,主張することは困難でしょうし,現実には大学受験でも多くの知識が必要です。

 本サイトでは「授業用プリント」と「講義記録」の2つを掲載していきます。世界史の理解の一助になれば,また 世界史の面白さを伝えられれば,幸いです。





トップに戻る

inserted by FC2 system